イー・モバイル、「700/900MHz帯割当で競争促進を」


 「イー・モバイル」ブランドでデータ通信サービスを展開するイー・アクセスは16日、2012年以降の割り当てが予定されている700MHz帯および900MHz帯に関して、報道関係者向け説明会を開催した。

 

700MHz、900MHz帯の基本的な割当方針

 総務省では14日、「周波数アクションプラン」の最新版を公表した。電波の使い道、再編方針である同プランは、定期的に意見を募集し、改訂される。700MHz帯と900MHz帯については、「ワイヤレスブロードバンド実現に向けた周波数再編アクションプラン」が昨年発表されており、2012年に900MHz帯(900~915、945~960MHz)、2015年に700MHz帯(710~806MHz)が、携帯電話事業向けに割り当てられる方針となっている。

 より詳細な方針、基準は、これから議論されると見られ、特に900MHz帯について2011年度中に整備される予定。

 今回、イー・アクセスは、9月6日に総務省から発表された「700/900MHz帯移動通信システムに係る参入希望調査」の結果を踏まえ、同社の主張をあらためて報道関係者に説明した。

 

千本氏「競争政策を重視すべき」

イー・アクセスの千本氏

 冒頭、同社代表取締役会長の千本 倖生氏は、「(参入希望調査により明らかになったが)4社とも900MHz帯に関心を持っている。どこか1社に割り当てが決まった、という風評は流れているが、決まっていない。これから選考が行われるだろう」と述べ、説明を開始した。

 同氏は、これまでの周波数割当を振り返り、2005年の1.7GHz帯および2.1GHz帯の割当で新規参入が実現し「歴史的な年だった」と評価。2007年の2.5GHz帯割当では、無線ブロードバンド技術が認められ、WiMAXやXGPという技術が導入され、新規事業者による参入が行われたものの、一方はKDDI系列のUQコミュニケーションズで、もう一方はウィルコムでその後ソフトバンク傘下になり、どちらも既存キャリアの支配下にあるとした。また2009年に1.5GHz帯と1.7GHz帯の割り当てられたが、現状はトラフィックの分散(オフロード)が主用途になっている。こうした施策は、世界的に見ても有意義な政策だったと一定の評価を与えつつも、全国の高速サービス普及促進という観点からは充分な成果をあげておらず、問題を残していると指摘。そこで、今回の900MHz帯割当では、高速サービス普及、競争政策を重要視すべきとアピールした。

これまでの周波数割当政策には一定の評価900MHz帯割当の意義
全国での高速化、競争促進を重視すべき、と主張

 900MHz帯および700MHz帯という周波数については、携帯電話事業者にとって、室内に浸透率が高かったりカバーできる範囲が広くできることが見込めるなど、特に地方展開でメリットがあるとして、全国展開に適した“プレミアムバンド”とする。ただ、割当時期が来年行われる900MHz帯の獲得を最優先にし、もし獲得できれば700MHzには名乗りを上げないという。この帯域は、長い年月をかけて最大100MHz幅が携帯電話用に割り当てられるとのことだが、そのうち30MHz幅が今回割り当てられる。これほどまとまった割当は今回が最後、とした千本氏は「国民に資する政策が必要」として、総務省にはLTEの早期普及による全国高速化、市場活性化に向けた競争促進の2つを重要視してほしいと訴えた。

 

5つの主張

イー・アクセスのガン氏

 一方、代表取締役社長のエリック・ガン氏は、通信事業者が保有する周波数帯には「質」「量」の観点があると説明。質とは、プレミアムバンドに代表されるようなエリア展開のしやすい帯域とそうでない帯域の違い、そして量とはトラフィックをさばくだけの帯域幅などを意味する。そうした面で見ると、イー・アクセスは1.7GHz帯に30MHz幅(15MHz×2)を持つだけで、他社は多くの帯域を持ち、分散できる余裕があるのではないか、とする。こうした指摘は、KDDIにはUQコミュニケーションズのWiMAXが、ソフトバンクモバイルにはXGPがある、ということも踏まえての主張という。

 こうした状況を踏まえ、イー・アクセスでは、900MHz帯の割当について、以下の5点を主張、アピールする方針だ。

  • 2012年からLTEを導入
  • 5年後を目処に人口カバー率99%以上
  • 競争力のあるLTEの料金設定
  • MVNOへのネットワークのオープン化
  • SIMフリー端末の提供

 周波数に関して論点になりがちな利用効率に関しては、イー・アクセスは他社よりもデータ通信が中心となっているものの、ガン氏は「月間のトラフィック(通信量)は、イー・アクセスが563Mbps、他社は293Mbps」と述べ、多くのトラフィックをさばき、有効に利用されているとした。他社ではスマートフォンの普及で、トラフィックの増加に拍車がかかる一方ながら、データ通信端末中心の同社では「ユーザー数の増加に比例する形」とのこと。それでも、トラフィックを分散させる施策は行っており、他社がWi-Fiスポットの拡充などを図る一方で、固定通信事業も手がける同社ならではのプランとして、ADSLなどと組み合わせた料金プランを導入していることなどが紹介された。

他社よりも周波数を有効活用としながらも逼迫度では比較しにくいとも同社のトラフィック対策

 900MHz帯のエリア整備に求められる資金の見込み額は、他社との競争上、まだ非公開とのことだが、総務省に対しては開示する。ただし、ゼロからの敷設ではなく、既存設備を活用することも想定されている。資金調達についても、具体的な計画は明らかにされなかったが、これまでイー・アクセスのエリア整備に必要な資金の調達には成功してきた、という過去の実績が紹介された。

 900MHz帯を獲得できれば、LTEを積極的に導入するとした同社だが、質疑で「900MHz帯は国際的に利用されていないのでは」と問われると、千本氏は「世界で最初に900MHz帯でLTEをやりたい。日本の先進性をアピールしたい」としたほか、ガン氏は「現在はないかもしれないが、今後(海外でも900MHz利用のLTEサービスが)登場すると思っている」と述べ、チップセットもマルチバンド対応が重要になるとの見方も示した。収益モデルの柱としては、データ通信端末に加え、スマートフォン、タブレットを想定している。

 700MHz帯、900MHz帯の割当について、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクで共通する用途としてはトラフィックの分散が挙げられている。イー・アクセスは大手キャリアの数分の一のユーザー数、となるが、こうした状況を踏まえて大手を優先する、といった考え方については「それならば、今後の割り当ては全て大手だけになってしまう」と千本氏は警鐘を鳴らす。同氏は、競争促進こそがデータ通信の高速化、料金の低廉化の呼び水となった、として停滞する国内経済のためにも、イー・アクセスに割り当てるべきと主張する。また会見後の囲み取材で、ガン氏は「東日本大震災でも当社のネットワークは繋がりやすかったが、当時、最も便利に携帯電話を使えたのは海外から日本へ渡航してきたユーザー。どの事業者にもローミングできれば、空いている回線経由で通信できた。当社が災害時に使えたということこそ、寡占化された市場ではなく、新興キャリアの存在が有効ということ」と説明した。

新規参入の効果新規参入の効果
5つの基準を求める他社との違い

 900MHz帯の割当については、特にソフトバンクモバイルがかねてより強い意欲を示している。ドコモやKDDIは保有している800MHz帯がソフトバンクモバイルにはない、とあって、900MHz帯の獲得は当然、といった主張を繰り広げてきたが、同じく800MHz帯がないイー・アクセスではどう対抗するのか。ガン氏は「900MHz幅を獲得してLTEを展開するときには、他キャリアにMVNOはどうか、とオープンにできる。現在、ソフトバンクモバイルともそうした形で良好な関係を築いており、そうした形が考えられる」とした。千本氏は「ソフトバンクモバイルは当初、HSPAを促進されるのではないか。当社は900MHz帯でLTEとなり、先進性を主張したい」とした。ガン氏の反論は、イー・アクセスもまた、他社が獲得した帯域にMVNOとして参入する可能性を想起させる。これに対し、ガン氏は、これまでのサービス運営で新たな帯域を獲得してもエリア整備などで自信を得ており、機会があるならば自社で設備投資をコントロールできるMNOのほうを狙う、と説明していた。

 他社にもMVNOでの利用を呼び掛けるなど、ネットワークのオープン性をアピールポイントの1つ。イー・アクセスの主張の1つである「SIMフリー端末の提供」は、900MHz帯がイー・モバイルに割り当てられても、ユーザーにとってはSIMフリー端末1つで複数キャリアのサービスが選択肢になり得る、とアピールする。

他社よりも周波数が圧倒的に少ない状況をアピール審査項目に5つの項目を設けるよう期待感を示した
イー・アクセスがまとめた、900MHz帯に関する各社の意向周波数の2つの価値をイー・アクセスは保有していない、と主張

 参入意向調査を終えたばかりの段階で、さっそくイー・アクセスが説明会を開催したことは、冒頭、千本氏が触れたように「他社に決まったかのような風評」に対して、牽制した格好となった。900MHz帯の割当制度の詳細は、まだ不透明ながら、来年の割当に向けて各社のつばぜり合いがこれから本格化すると見られる。未曾有の大震災を経験し、モバイルサービスの重要性がさらに増した日本において、割当にはどういった基準、方針を掲げ、今後のモバイルサービスの発展に繋げていくのか。総務省側の議論も待たれるところだ。

 




(関口 聖)

2011/9/16 15:51